2005年9月20日(火)
9月14日に行われた、第28回 日本顔学会イブニングセミナー「顔の美術解剖学」に参加しました。
講師は東京芸術大学美術学部造形学科、美術解剖学研究室の宮永美知代さん。
「モナ・リザ」や能面など、多様な造形を美術解剖学の立場から顔を考察するというものでした。
※赤字が私の言葉です。
まず、女性の顔が全く同じような化粧品のポスターを2枚見せて「どちらのほうが印象が良く見えるか?」という質問から。
私を含めた後ろの席の人は距離と暗さでその微妙な違いが分からない人が多かったが、前の席の人は片方が明確に印象が良いという結果でした。
その印象が良かったほうのポスターは、瞳孔を大きく加工していて、瞳孔が大きいほうが印象が良く見えるということが語られた。
【1.顔の発見】
「人は顔を注意深く見ている」「印象として感じ取っている」という話。
だから、ものを見た時でも顔に見えやすく(マンホールや缶のドリンクを上から見た時や、鞄の柄など)「顔はキャッチされやすい」という話。
【2.顔の2つの見方】
立体として顔をとらえる見方と、顔の表面の器官(目、鼻、口)と眉(※つまりあわせて顔パーツ)などの色や形、配置をとらえる見方を、レンブラントの絵や日本絵画を挙げながら説明された。
その中で印象に残ったのは、「日本人は顔を立体的に見るのが苦手。(元々フラットな顔だからか?)」「正面顔は鼻が描きにくくなる」の2点。
自分で自分顔を見る時は、鏡で正面顔ばかりを見ることになるので、鏡を2枚使ったり写真に撮ったりしていろんな角度から自分の顔を見てみることをお勧めします。
先日発売になった著書顔面仕事術の中でも「顔タイプ別判定テスト」のイラストは少し斜めの角度から、正面顔での説明がほどんどの「5秒で相手を見抜くフェイスリーディング31」のイラストでも鼻に特徴のあるものは少し斜めの角度からイラストを描いてもらいました。
【3.頭蓋と顔】
これは非常に面白かったです。
頭蓋骨は脳を格納する脳頭蓋とそれ以外の顔面頭蓋に分けられるが、頭のかたちとはすわわち脳頭蓋のかたちであるということ。
そして、鼻も上方1/3は鼻骨があり、鼻の高さや幅も骨格(顔面頭蓋)によりほぼ決まる。頬が張りだしているかどうかも顔面頭蓋内部の頬骨弓のかたちが反映している。オトガイや顎のかたちも、下顎骨のかたちの反映である。
目と口は、頭蓋とは直接関係なさそうだが(目が一重か二重瞼か、目が大きいか小さいかは直接骨格とは関係しない)、しかし、目の高さ、また、目尻がつり上がっているか、下がっているか、両目が離れているか、くっついているか、というような目の位置の諸特徴は、骨格によりほぼ決まっている。また口もとも、唇の大きさや厚さとは関係しないかに思われるが、唇が前方に突出しているか後退しているのか、口吻部の突出具合は、まさに顎骨と歯列が決めている。
ということだった。
「目尻がつり上がっているか、下がっているかは骨格によりほぼ決まっている」ということだが、私はいつもしている表情によって徐々にではあるが変えていけるものだと思っています。私自身、幼い頃から自分の顔をよく観察してきましたが「幼稚園、小学生の頃の目尻は下がり気味、高校生の頃は上がり気味、そしてだんだん平行に近くなってきて30歳を過ぎた頃からまた下がりはじめた」ように思います。
口吻部の突出具合のほうはその通りですね。私の場合は上顎骨が特に突出しているため口全体が前方に突出していて、出っ歯の明石家さんまさんのようなタイプは、歯列が前に並んでいるため唇が前方に突出しているのだと思います。
【4.表情筋と表情】
「社会的動物である人にとって、表情は重要である。」というのが印象に残った。
この話の中で原島先生は「モナリザには眉が無い。眉がないということは表情を消している(眉は表情が一番出る部位)。」「眉が無くし表情を消すことによって謎めいた顔になっている。」とおっしゃっていて、なるほどなと思いました。
【5.顔面の左右差】
西洋絵画では、正面顔が描かれることが極めて少ない。一方、日本絵画では仏画にしばしみられる。正面顔であっても左右対称に造形されることは西洋の造形ではほどんど無く、日本美術でも極めて少ない。それは何故か?
西洋美術では「非対称の中に、動きや生命の宿りを見る。」
シンメトリーとアシンメトリーの持つ特徴(D.Frey)
symmetry……静止、束縛、秩序、法則、法則の厳密性と強制
asymmetry……運動、弛緩、不分明、偶然、生命、遊戯、自由
●光は向かって左から右に影を描く。(理由は分からないが、絵画の中に歴然とある。)
そして本人にとっての左側の顔を描き手に向ける場合が多い。
私はこの理由として「右手で描く人が多いから右側に影を描きやすい」思ったのだが(私は左利きなので左右のことに関してはかなり敏感である。※箸とペンは右)
原島先生からは「『右手で描く人が多いから右側に影を描きやすい』とよく言われるが、他に左側を出す理由として、柔らかい表情を出すためではないか?左側と右側では左が柔らかい顔であることが多い。いう説もある。」更には個人的にはと「左側を前にして相手に向けるのは心臓を前にしてオープンにし、相手に対して安心感を与える意味もあるのではないか?」ということだった。
「武器を持っていないことを示すため握手は必ず右手でする」というのもありますので、その可能性はありますね。
他に原島先生からは左側を出す理由として「昔から左が装飾側だったから」という説も。(勲章しかり、ブローチしかり)
※ただこれは個人的に、右利きの人が自分で付ける時に左手で右に付けたり右手で右に付けるよりも、右手で左側に付けたほうが付けやすいからだと思う。それがいつしか左側に付けるのが慣習になり、身体の左側(向かって右側)に装飾があるほうが見慣れていて安心でき、向かって左側に装飾があると違和感を感じるのではないか?
●写実的に表現しようとすると完全なシンメトリーではなくなる。
原島先生からは
「左右対称すぎる顔は真面目に見えるが、真面目すぎて面白みに欠ける。」「ニヒルな顔を描くときに片方の口が上がったように描くが、これで左右非対称になり一癖ある顔になっている。」
「しかし、シンメトリーが大きく崩れると病気の現れである。 」という話や「人間を含む高等動物の身体の外側がシンメトリーなのには理由がある。」「歩く時に左右対称のほうがまっすぐ行ける。」「運動する動物はシンメトリーである必要がある。」「その変わり高等動物の身体の内側(内蔵)は複雑になり、左と右では機能が違う場合が多い。」「さらに人間は脳も左右の機能が大きく違っている。」「下等動物や原生動物になるほど身体の内側(内蔵)もシンメトリーになっている。」
また原島先生からは他にも「証明写真は耳を見せるべき。」というお話もあった。
※顔の整形で似せられることが出来ても耳の形で本人か別人か分かる。それほど耳の形は人さまざま。
【6.能面の美】
光によって表情が変わるというお話。
その他、化粧について「アフリカの部族に見られる日常を超えた化粧のように化粧も描きすぎると仮面になる。」(※そう言えばプロレスラーにも顔にペイントをし、仮面のようにしたグレート・ムタという人がいます。)
「厚いメイクは新たに目を作る、口を作る。だから、顔を見てもその人の素の感情が分からなくなる。」
という話があった。
質疑応答では、メイクが専門の人から「メイクも絵画も押しと引きでは引きで描く場合が多い。引きで描いたほうがキレイに描ける(左側がより美しく描ける)。よって人は顔の左側を少し前に出すのではないか?」という話があった。
また「写真撮影等では『顔の左側』を少し前に出すことが多い。『自分の好きな顔の向きは?』と聞かれると『左側』が多いのもそのため(左側が美しく印象がいい)からではないか?」ということも。
会場でも『左側』が好きという声が多かったが、私は写真撮影の時は「顔の右側」を少し前に出します。
※私の場合は左利きで、野球、ゴルフ等過去にやっていたスポーツで相手(目標)を見る時に左半身に構え、右側が前に来る姿勢が多かったためだと思われる。
「引きで描いたほうがキレイに描ける」に関連した話では「筆の勢いでイキイキとした表情を出す。」「逆にモナ・リザはなぞるように丁寧に筆を使っている。」という話も出ました。
今回のセミナーで改めて「顔」は面白いと思いましたし「顔」を考えることで顔以外のいろんなことも分かっくるので、「顔」について考えることは本当に面白いと思いました。
著書「顔面仕事術」において今までの私の考えを述べましたが、これからもまだまだ顔研究に精進していきたいと思います。